一枚の写真から その17 いまだにわかっていない層状チャートの成因

 

この写真は、岐阜県郡上市母野の長良川左岸露頭です。層状チャートです。今までの研究によって、チャートは放散虫などの微生物の遺骸が深海に堆積したものであることが解明されています。そして、含まれる放散虫を抽出し詳しく調べることによって、チャートの形成年代がわかるようになっています。また、地質構造の解析が進み、堆積したチャートがどのようにして現在の分布状況となったかが明らかにされています。現在では、形成年代がわかった層状チャートのさらなる分析によって、過去の大絶滅時に海洋で起きていたこと、また他の時期の大規模火山活動や隕石衝突などについて解明されつつあります。ちなみに、チャートは岐阜県の県の石として認定されています。

この写真の層状チャートは、数cm~5cmの厚さの淡青灰色のチャート層と、数mm~2cmの厚さの泥岩層が交互に堆積しているのがよくわかります。岐阜県では、多くの崖で見られる層状チャートですが、科学が発達し、多くのことがわかってきた現在でも、この層状の成因がわかっていないのです。なぜこのようなきれいな層状になっているのか、どのように層状チャートが形成されたのか、はまだ明確にはわかっていないのです。

もちろん、そのことについての研究も進められています。層状チャートをくわしく分析すると、チャート層と泥岩層中に大きさが5~100μという微小な磁性粒子(磁力をもった小さな粒)が含まれています。この磁性粒子は、宇宙からもたらされた微小な物体(宇宙塵)とみられています。そして、突発的に宇宙塵の流入が増加する出来事(隕石衝突など)以外は、宇宙塵がもたらされる量には大きな変動がないようです。すなわち、入っている磁性粒子(宇宙塵)の量を調べることによって、チャート層と泥岩層の堆積速度が比較できるのです。ある研究者が調べると、チャート層と泥岩層それぞれの磁性粒子の濃度は、泥岩層がチャート層より10倍~100倍(1桁から2桁)も高かったのです。すなわち、泥岩層はチャート層よりかなり遅いペースで堆積していることを意味します。そして、チャート層はかなり速いスピードで堆積する、つまり速いスピードで放散虫類が降り積もったことになるのです。他の研究者が違う物質を使ってチャート層と泥岩層の堆積スピードを調べると、チャート層は泥岩層より1桁程度の堆積スピードの差はあるものの、2桁以上の差はないという報告もあります。なお、層状チャート中のチャート層と泥岩層は肉眼では明確に分かれているように見えますが、実際には、チャート層中に泥の成分は含まれるし、泥岩層中にも放散虫類の化石は見られるようです。

上記の研究によると、層状チャートは深海で泥の層が常にゆっくり堆積していて、チャートのもととなる放散虫などは増加したり減少したりしていて、増加したときにチャート層が形成されることになります。研究はそれにとどまらず、放散虫などが増加したり減少したりする年代を調べると、周期性があるらしいのです。その周期は偶然的なものではなく、あるリズミカルな周期に一致するというアイディアが出されています。


地球には、地球の公転における楕円軌道の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸のすりこぎ運動(回転する物体の自転軸が円を描くように傾きを変える現象)の3つの要因によって日射量が変動する周期があり、それが第四紀(約260万年前~現在)における氷期と間氷期の繰り返しの原因になっていると考えられています。その周期は、発見した地球物理学者の名を取って「ミランコビッチ・サイクル」と呼ばれています。ミランコビッチ・サイクルが、数万年単位での周期で放散虫類が増加したり減少したりするのを決めていて、その影響で層状チャートが形成されているという考え方が出されているのです。

このように、研究は進められていますが、いまだに説の域を出ないようで、層状チャートの層状の成因は明確にはわかっていないのです。

以下の文献を参考にしました。

・小白井亮一(2023):すごい地層の読み解きかた(p9195),草思社

・尾上哲治(2018):美濃帯層状チャートの堆積機構に関する3つの問題,地質学雑誌第124巻第12

・小出良幸(2017):層状チャートの多様な成因について,札幌学院大学人文学会紀要第101

同じ露頭を少し離れて撮ったもの


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