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露頭と立体視その6(甌穴と立体写真)

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地形における凸凹はいろいろありますが、露頭規模において凹地形として代表的なものに甌穴があります。甌穴は、流れのある河川沿いにおいて、流されてきた礫(石ころ)が岩盤の凹みなどに引っかかり、水流によって回転し、岩盤を削り、掘り下げた穴です。礫の回転によって削られ掘り下げられるので、やわらかい岩盤の方がよいように思われがちですが、穴が保存するためには硬い岩盤であることが必要です。やわらかい岩盤は削られやすいですが、縁がくずれてしまい深い穴にはならないのです。実際に、岐阜県に広く分布する美濃帯堆積岩類中の甌穴は、硬いチャート層中にできていることが多いです。 岐阜県では、甌穴は飛騨川沿いで見られる飛水峡の甌穴群が有名ですが、チャート層に掘り込まれた穴です。写真は3種類ありますが、いずれも甌穴の写真です。 同じような写真が2枚並んでいますが、写真の下の白丸または黒丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。 上の写真は層状チャート中にあいている甌穴を撮ったもので、真中付近の甌穴に近づいて撮ったものが真中の写真です。また、下の写真は別の甌穴を撮ったものです。立体視で見ることによって、上の写真では層状チャートの表面の凸凹がわかります。真中の写真では、甌穴に水が入っているためややわかりにくいですが、表面近くでは大きな凹みが、より深くには割と小さな穴が開いているのがわかります。その穴より少し小さな丸い石も写っていて、穴を開けた石だろうと想像できます。下の写真の甌穴は、奥へも掘り込まれていることが立体視によってよくわかります。 下の4枚の写真は、郡上市美並町母野地区の長良川左岸沿いの露頭で見られる甌穴を撮ったものです。チャート層に掘られた甌穴で、2m以上垂直に掘り込まれた甌穴もあります。上の写真は、甌穴が見られるところを南から撮ったものです。立体視ができると、甌穴の部分だけではなく、露頭全体が凸凹しているのがわかると思います。上の写真のハンマーの右に写っている甌穴が深さ2 . 4mほどあるもので、それを西から撮ったものが中上の写真で、近づいて上方から撮ったものが中下の写真です。ほぼ円形で直径は90cmほどです。立体視で中下の写真を見ると、全体的には右側は上部から垂直に近く掘り込まれ、左側は上部がやや漏斗状になっていることがわかります。下の写...

露頭と立体視その5(石灰岩内のカレンなどの溶食地形の立体写真)

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岐阜県美濃地方に広く分布する美濃帯堆積岩類中の石灰岩は、海洋で形成した過去のサンゴ礁が岩石になったものです。石灰岩はおもに炭酸カルシウム(CaCO 3 )からなるため、酸性の溶液に溶けます。雨水は、大気中の二酸化炭素を溶かし込んでいて弱い酸性になっています。そのため、石灰岩が露出している場合、雨水などに溶かされ、他の岩石には見られない地形(カルスト地形)をつくりだすことがあります。 カルスト地形にはいろいろありますが、地面を覆っている石灰岩が溶かされ、一部が溶けずに残ると、その部分だけが地面から突出したように柱状に残ります。このような地形をピナクルと呼びます。また、溶食が進んだ石灰岩の表面には溝が形成されます。その溝のことをカレンと呼びます。 写真は3種類ありますが、いずれも大垣市赤坂金生山の岩巣公園内の石灰岩を撮ったものです。岩巣公園内のピナクルと石灰岩表面のカレンを撮りました。同じような写真が2枚並んでいますが、写真の下の白丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。 上の写真は、岩巣公園内のピナクルを撮ったものですが、立体視をすることによって、石灰岩の凸凹が臨場感たっぷりに目に飛び込んできます。 真中の写真は、石灰岩の表面にカレンが発達している場所を撮ったもので、まるで険しい山脈のミニチュア版を見ているようです。立体視で見ることができると、尖っている尾根や深い谷、U字状にくぼんだ部分がわかります。 下の写真は、石灰岩の表面にできた溝状の地形(カレン)が発達しているところを近づいて撮ったものです。溝状の地形を正面から撮ったものですから、立体視で見ることで、溝はU字状をしていて、溝と溝の間は尖った山状になっているのがわかります。いずれか一方の写真を見ていてはなかなか伝わらないでしょう。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

露頭と立体視その4(砂岩泥岩互層の立体写真)

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砂岩泥岩互層は、砂岩層と泥岩層が交互に堆積している地層です。美濃帯堆積岩類中にも多く見られ、長良川沿いでは郡上市大和町で広く観察される地層です。簡単な実験でつくれるのですが、砂と泥を混ぜたものを透明で水の入った容器に流し込むと、下に砂が堆積し、その上に泥が堆積します。砂の層の上に泥の層がのった状態になります。砂と泥を混ぜたものを水の中に入れると、砂は早く堆積し、泥の層はゆっくり堆積するので、砂の層と泥の層が分かれたような状態になるのです。泥の層が堆積したところで、再度砂と泥を混ぜたものを流し込むと、前に堆積した泥の層の上に砂の層が、その上に泥の層が堆積します。つまり、下から見ると、砂の層→泥の層→砂の層→泥の層となります。これが砂泥互層で、固くなり岩石になると、砂岩泥岩互層となるのです。ここで、注意しなければならないのは、砂の層→泥の層の境界部は砂の粒がだんだんと細かくなり泥の粒に変わるのですが、泥の層→砂の層の境界部は急に細かい泥の粒から砂の粒に変わることです。この実験は、小学校6年生の理科で行われる基本的な実験です。 現実的には、川から流れ出した砂や泥が海に堆積します。その状態では、流れのため砂や泥が交じり合っていることが多いですが、その砂と泥が混じっている堆積物がより深い海へ移動した場合、水の中の作用によって砂が下、泥が上にわかれて堆積し、それが繰り返すことによって砂泥互層となるのです。 写真は2種類ありますが、いずれも郡上市大和町河辺森の長良川左岸沿いの露頭で、砂岩泥岩互層を近くから撮ったものです(ハンマーの長さは約28cm)。上の写真は普通に撮ったもの、下の写真は立体視ができるように撮ったものです。白っぽい層と黒っぽい層がありますが、白っぽい層は砂岩層で、黒っぽい層は泥岩層です。露頭では、砂岩層と泥岩層の硬さの違いから浸食の違いが見られ、砂岩層が凸で、泥岩層が凹になりやすいです。立体的には見えない上の写真でも、白っぽい砂岩層が手前に出ているように見えます。しかし、それは白色が膨張色であるため、目の錯覚により手前に出ているように見えるためです。下の写真の下方にある●は立体視の補助となる丸で、左右の●が重なるように見ることができれば写真全体が立体的に見えます。立体視で見られると、凸凹の部分がわかると思います。 砂岩泥岩互層の観察で大切なことは、前述...

露頭と立体視その3(チャート石灰岩互層の立体写真)

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  写真は4種類ありますが、いずれも立体写真です。すべて岐阜県の美濃帯堆積岩類内の露頭を撮ったものです。 同じような写真が2枚並んでいますが、写真の下の白丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。 上と中上の写真は、「 露頭と立体視 その2」で掲載した露頭(関市洞戸栗原の洞戸キャンピングセンター左岸の河床露頭)の近辺にあるチャート石灰岩互層の露頭です。露頭の表面にはコケ類が生えているため、どこがチャート層でどこが石灰岩層であるかは、普通はハンマーなどで割って確かめることになります。しかし、チャートと石灰岩の浸食の違いから岩石の表面が凸凹しているため、凸はチャート層、凹は石灰岩層であることがわかります。並んでいる2枚の写真のどちらか一方を見ても、凸凹は明るさや影のつき方などである程度見当がつきます。しかし、2枚の写真で立体視をしてみると、はっきりと凸凹がわかります。このように、チャート石灰岩互層の露頭を立体視で示すと非常にわかりやすいのです。 中下の写真は、長良川沿いの露頭で見られるチャート石灰岩互層の露頭です。場所は、美濃市横持の長良川沿い左岸河床です。灰色がチャート層で白色が石灰岩層ですが、立体視をすることによって、チャート層が凸になっていて、石灰岩層が凹んでいることがわかります。 下の写真は、関市板取一里保木の杉の子キャンプ場内の板取川右岸露頭です。黒色の珪質泥岩の中に、白色の石灰岩の礫が入っています。石灰岩礫の部分が外の珪質泥岩の部分より浸食を受け、凹になっているのが立体視によってわかります。立体視をすることなく、それぞれの写真を見ると、目の錯覚によって白色(石灰岩)の方が浮き出て見える気がするかもしれませんが、凹になっています。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

露頭と立体視その2(露頭の立体写真)

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  露頭は、地層や岩石が地表に露出しているところを指します。一般には、崖や海岸および川岸の土手などで見られます。河川は運搬や堆積以外に浸食の場でもあるため、河川沿いには地下や側方の岩石が露出することが多いです。また、露出した岩石は流水で洗われ、全般的にきれいになっています。そのため、河川沿いは露頭が多く、かつきれいで見やすくなっている場合が多いです。 露頭の立体視はどうでしょうか。立体的に見える(浮き出て見える)ので、リアルであったり、見栄えがしたりするという面はもちろんあります。それだけではなく、露頭は地質現象が現れている場所なので、立体視によって表面の凸凹を肉眼より強調して見ることによって、その地質現象をよりわかりやすくとらえられる場合があるのです。わずかな差別浸食(砂岩泥岩互層、チャート石灰岩互層)、石灰岩内のカレンなどの溶食地形、節理(方状節理、柱状節理)、甌穴、足跡化石、漣痕やソールマークなど岩石表面の凸凹が表現できます。だから、他の人に露頭で見られる地質現象を説明する場合、立体感を示したり、強調して凸凹を示したりすることができます。ただし、立体視による立体感を知覚できない人は、1~2%程度は存在すると言われています。そのため、この立体視は全員ができるものではないことを理解しておく必要はあります。 露頭の撮影は、立体視と相性がよいと考えます。特別なカメラ(立体視用カメラ)を使うことなく、普通のカメラで2回撮影による立体写真を撮るためには、被写体が動いていないことが第一条件です。また、露頭撮影では数mから10数m離れたものを撮るので、右眼用の写真と左眼用の写真で10cm程度離して撮影すればよいです。立体視は、一つの被写体の中に遠近の異なるものが複数あると見にくくなったり、合わせにくくなったりしますが、露頭は一つの塊のものが多いので(もちろん連続露頭はありますが)、立体視としては複雑ではないです。ただし、川原の複数の礫(石ころ)や樹木などの植物も入るとやや複雑になり、見にくくなる、もしくは合わせにくくなります。また、露頭の前に近景のもの(木の枝や背の高い草など)があると立体視の邪魔になります。 チャート石灰岩互層は浸食の違い(「差別浸食」と言います)から、露頭においてチャート層より石灰岩層が強く浸食を受け、チャート層は凸で石灰岩層は凹となっています...

露頭と立体視 その1(航空写真による立体視)

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X(エックス、旧ツイッター)では、1年間と少し、「名古屋の街化石」と「立体視ができる写真」をほぼ毎日ポストしてきました。「名古屋の街化石」については、ブログでも「都市で見られる化石」と題して、2024年1月5日~5月8日にかけて、26回に分けて紹介してきました。そこで、「立体視ができる写真」についても、ブログでまとめていきたいと思います。 立体視ができる写真(立体写真)は古くから知られており、2眼の立体視用のカメラで撮った2枚の写真を使って立体視をします。しかし、2眼の立体視用のカメラは両眼(右と左のレンズ)の距離が固定のため、近景の被写体は立体に見えますが、遠景の被写体はあまり立体には見えません。例えば、人の右眼と左眼の距離は約6cmですが、人の眼では数m~10mほどの被写体は立体に見えますが、それより遠方の被写体(景色など) はほとんど立体には見えません。つまり、右と左のレンズが6cmほど離れている 立体視用のカメラでは、数m~10mほどの被写体はしっかり立体感がわかりますが、遠方の被写体(景色など) は立体に見えにくいのです。しかし、左眼用の写真と右眼用の写真を大きく離して撮影をし、その写真を左右に並べて立体視をすると、肉眼では立体に見えない遠方の被写体も立体に見ることができるのです。2眼同時に撮影しなくても、被写体が動かないものであれば、カメラ一台で左眼用と右眼用に写真を撮ればよいのです。ただし、そのためにはカメラを平行に移動し、被写体を2回撮影する必要があります。その仕組みを使って撮影したものが立体視用航空写真です。 地形や地質を学ぶ、もしくは研究する者にとって、航空写真を使った立体視によって地形を読み解くのは、重要な作業です。最近の航空写真を使って立体視もされますが、現在は土地の大規模開発が進んでいて、本来の地形の姿がわからない地域も多いです。そこで、まだ開発が行われていなかった時期に撮られた写真が使われることが多いのです。それが、第二次世界大戦直後に撮影された米軍による航空写真(白黒写真)です。航空写真による立体視によって、活断層や断層地形の認識、段丘面の範囲や高低差、地すべり地形の認識、火山の形、火山噴出物の分布などを、読み取ることができます。つまり、航空写真による立体視は地形を読み解くのに欠かせない重要な作業、むしろ調査なのです。  写...

板取川沿いの地質、露頭 その60 板取白谷下白谷橋上流左岸の溶結凝灰岩 :関市板取白谷の下白谷橋上流50m弱左岸河床露頭

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 関市板取白谷の下白谷橋の周辺には駐車場が何箇所もあります。この駐車場は、クロード・モネが描く「睡蓮」に似た景色を眺めることができるということで、全国的に有名になった名もなき池(通称モネの池)へ行くための駐車場です。 その下白谷橋の上流側(北側)にも、河床に溶結凝灰岩の露頭があります。この露頭には、数cm径の円~楕円形のものが所々に含まれます。 マグマの粘性が高く、カルデラを伴う大規模噴火の場合、噴出後、火山ガス、バラバラになった火山ガラスや鉱物、火山ガスを含み液体状のもの(冷え固まると軽石)などが混ざり合って高速で移動し、堆積します。このような噴出物を火砕流、堆積したものを火砕流堆積物と呼びます。高速で移動後、堆積するわけですが、大量の噴出物であるため、全体的に重く、高熱が残っています。そのため、堆積後、一度空中に放出され冷えた火山ガラスや軽石は全体が高温であるためやわらかくなり、自らの重さでつぶされるのです。この作用のことを溶結作用と呼びます。その際に、火山ガスは空中に抜けますが、抜けるための道の痕跡が残るはずです。ここの露頭では、数cm径の円~楕円形のものが見られますが、ガスの抜け道の痕跡かもしれません。 地質図において、×地点が露頭の位置ですが、淡褐色の横線あり( OK3 )の中にあり、 OK3 は奥美濃酸性岩類の洞戸岩体です。写真は五種類ありますが、上の写真は南からパノラマで撮ったもので、中上の写真は上の写真の中央少し右を撮ったものです。真中の写真は、上の写真(または中上の写真)に写っているハンマー付近を近づいて撮ったものです。ハンマーの頭部の上に、外側が白い円形状のものが写っていますが、ガスの抜け道の痕跡と考えられるものです。それに近づいて撮ったものが中下の写真です。下の写真は、他の場所で見られた円形のものを撮ったものです。中下に写っているものとは異なり、暗緑灰色~青灰色をしています。中上と真中の写真は、同じような写真が2枚並んでいますが、写真の下の黒丸または白丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。(地質図はHP「ジオランドぎふ」より 岐阜県博物館提供) 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)