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9月, 2025の投稿を表示しています

一枚の写真から その3 地質の違いと山の形

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  上の写真は、岐阜県美濃市の長良川東方にある松鞍山(標高 316m )を南から撮ったものです。南から見ると、台形の山の上に三角形の山が乗っているような山の形です。南から撮った写真ではわかりにくいのですが、山の左側にも山頂があり、左の山頂と右の山頂の間が凹むという山の形をしているのです。地形図では全体で松鞍山という記載になっていますが、地元では左の山頂を前平山と呼び、右側の高い方を松鞍山と呼んでいます。地質図を見ると、大部分はチャート層(地質図ではオレンジ色)でできていて、砂岩層(地質図では黄色)が南東から北西にかけて挟まっているという分布をしています。砂岩層がチャート層と比べて浸食されやすいため低くなり、その結果一般的な山のイメージとは違い、南から見ると左部分が削られたような形になっています。 このように、松鞍山は地質の違いで浸食が異なり、それが山の形をつくりだしているのです。地質が反映されている山の一例です。 下の写真は、松鞍山を北から撮ったものです。「松鞍山」の下に二つの山頂がありますが、「山」の下が前平山、「松」の左下が松鞍山です。南から見るよりも真中が凹んでいるのがわかると思います。長良川鉄道で美濃駅から郡上八幡方向へ向かい、美濃駅出発後約 1 分 20 秒後に撮った写真です。地質図は、 HP「ジオランドぎふ」(岐阜県博物館提供)からとったものです。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その2 チャート層と崖

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上の写真は、岐阜城がそびえ立つ金華山~洞山を南から(岐阜市北一色あたりから)撮った1枚です。金華山~洞山はチャート層からできていて、全体的に木々に覆われていますが、垂直に近い部分では崖が形成されていて、岩石が露出しています。写真では淡灰褐色~灰色をした部分がチャートの崖です。 チャートは、陸地の砂や泥などが届かないような深海底で堆積したものがもとになっています。具体的には、ガラス質の殻をもった微生物(放散虫など)が堆積し、固まったものです。ガラス質のものがくっつき、固まったものであるため、硬く浸食されにくい岩石です。岐阜市から北西の美濃市にかけては、チャート層と砂岩層が隣り合って分布することがあり、そのようなときには、チャートは浸食されにくく、砂岩は浸食されやすくいという特徴が地形に現れます。チャート層は高く険しい山地を構成し、砂岩層は低くなだらかな山地を構成するのです。岐阜市や美濃市の割と高い山頂をもつ山は、チャート層でできているものが多いです。チャート層と砂岩層が隣り合って分布し、1つの山を構成する場合でも、山頂はチャート層でできているようです。砂岩と比べてチャートは浸食されにくいため、高い山地として残るのです。 しかし、チャートも浸食しないわけではありません。チャートは硬いけれど、けっこうもろいです。表面から風化するというより、直方体でくずれるのです。例えば、チャートをハンマーで叩き割ろうとすると、直方体のような形で細かく割れることが多いです。また、ガスバーナーなどで熱して、水で冷やすということを繰り返すと、直方体で割れてしまいます。このようにチャートは硬いですが、縦横に割れ目が入っていてもろいのです。割れ目については、チャート層は付加体として陸地にくっついたもので、プレートの動きにしたがって、外から力を受け続けていることに起因しているのだと考えられます。チャート層が分布する山地では階段状の地形をなすことがありますが、直方体で割れやすいことが関係しているのでしょう。そのため、垂直の崖もつくり出しやすいのだと考えられます。逆に言えば、垂直の崖が見られるのがチャートの山の目印と言ってもよいのでしょうか。もちろん、ほかにも火山岩の節理のように崖を作り出しやすい岩体はありますが。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その1 根尾谷断層(水鳥の断層崖)と樽見鉄道

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  今まで、岐阜県内の長良川とその支流沿いの地質と地形、および美濃地方の地質、名古屋の街化石、地質と立体写真などについて、掲載してきました。これからは、岐阜県の地質に関係する一枚の写真をもとにして、20回に渡ってつぶやいてみます。 上の写真は、岐阜県本巣市根尾水鳥、特別天然記念物である「水鳥の断層崖」を段丘面から南西より撮ったものです。中央左下から道路をまたいで左右の田畑に段がありますが、これが断層崖です。中央少し左下には小さくて見にくいですが、根尾谷断層の石碑と表示板があります。右端には根尾谷断層館が、中央右には樽見鉄道の列車が写っています。 1974 年、日本鉄道建設公団による樽見への鉄道敷設工事中、特別天然記念物・根尾谷断層にかかったため、地震学会等の申し出により一度工事が中断され、ルートの変更後再開したという経緯があります。その経緯が、地震学者側からですが、「地質ニュース 464 号( 1993 年 4 月号)天然記念物「水鳥の断層崖」の開発 松田時彦」に載っています。一部抜粋します。 「…そんなある日、現地を訪ねた一人の地震学者が、その断層崖の一部が大規模な工事現場に変わり、どこからか運び込まれた多量の土石の山に埋められつつあるのをみて、吃驚した。断層崖を埋めるその工事は、断層崖を横切ってさらに上流へ延びる鉄道の敷設工事であった。多量の土砂は、線路が高さ 5m の断層崖を横切るのに必要な盛り土の材料であったから、その盛り土の高さはすでに断層崖よりも高くなっていた。その知らせはすぐに専門家の間に広がり、 1974 年 8 月には、関連する 3 つの学会、地震学会、日本地質学会、日本地理学会がそろって、文化庁長官あてに断層崖の現状保存を訴える要望書を出した。このような学会の動きに反発する村民も少なくなかった。土地の人々にとっては、鉄道を通すことは明治時代からの宿願である。学者が云うほどに大切なものなら、今日まで、なぜそれを放置してきたのか。鉄道を退けての現状保存は土地に住む人のことを考えない学者の身勝手ではないか。学者一行が現場にきたら、むしろ旗で迎える、という噂さえあった。数年後、鉄道はその線路の位置を当初計画よりも数十m南西に迂回させて完成した。新しい路線は、断層崖のはずれであり、路床は盛り土ではなく高架橋にかえられた。断層崖を埋めた土砂は丁寧に除...

展示物と立体視その8(番外編 城と立体視)

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2回の撮影による立体写真作成は、被写体と近辺のものが動かないこと、被写体の手前に写り込みするものがないことの2点がクリアできれば、可能です。そのため、露頭や展示物だけではなく、城などの立体感がある建物も立体視との相性がよいと思います。城などの建物は、手前に写り込みするもの(木の枝など)がなく、人の映り込みがなければ、立体写真用の写真を割と楽に撮ることができます。天守閣や櫓などは石垣の上に建てられているので、石垣の上部より上方を撮れば、人の写りこみがない写真になることが多いです。 立体視では、立方体や直方体だけではなく、装飾があった方が立体感を感じ取ることができ、そのものがもつ美しさがよりわかると思います。特に、天守閣には屋根に破風(はふ)と呼ばれる立体的な造形があり、立体視で見ることによって、城の立体感が強調されます。 写真は5種類ありますが、上から順に、彦根城(滋賀県彦根市)、松江城(島根県松江市)、岡崎城(愛知県岡崎市)、郡上八幡城(岐阜県郡上市)、大垣城(岐阜県大垣市)です。写真の下方にある左右の白丸を、遠くを見るようにして重ね合わせることができると立体に見ることができます。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

展示物と立体視その7(火山噴出物と立体視)

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火山噴出物である火山弾、軽石などは、火口から噴出し、その後の動きによって外形がつくられます。そのため、外形がその動きを表しています。火山噴出物の写真は2種類あります。上の写真は群馬県立自然史博物館で撮ったもので、右からパン皮状火山弾、紡錘状火山弾、牛糞状火山弾です。パン皮状火山弾は、火口から噴出された後、空中を飛行する間に外側が先に冷え固まりますが、内部はまだ熱く、内部にあるガスが気泡となって膨張し、表面を破って外へ出てしまうため、外側にひび割れが発達するのです。紡錘状火山弾はラグビーボールのような紡錘形をしていますが、粘性の低い(粘り気があまりない)マグマが火口から噴き出され、空中を飛行する間に回転し、この形になります。地面に落ちるまでには冷え固まるため、紡錘形を保存したままとなります。牛糞状火山弾は、粘性の低いマグマが落下し、地面に着地する時にまだ流動性が残り、つぶれて牛糞のような不規則な円盤状に広がったものです。下の写真は岐阜県博物館に展示されているパン皮状火山弾です。 火山噴出物は、熱くて流動性があるマグマが噴出し冷え固まる中で形が固定します。そのため、形によって、どのような動きや状況があったかがわかるのです。だから、立体でとらえられることが重要だと考えます。その意味で、立体感をもって見ることがより深い理解につながります。 下の4種類の写真は、山梨県富士河口湖町の富岳風穴内の縄状溶岩です。縄状溶岩は、粘性の低い玄武岩質溶岩が流れる際に、表面は冷えて固まりますが、内部は厚いままなので、表面の下は未固結の溶岩が流れ、表面が押されてしわができるのです。表面に縄を束ねたような模様が見られるのが特徴です。立体視で見ることによって、溶岩の表面の縄状のしわが立体でとらえられると思います。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)