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一枚の写真から その7 火成岩の急冷周縁相

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上の写真は、郡上市美並町黒地の長良川沿い左岸露頭の写真で、美濃帯堆積岩類のチャートに貫入している花崗斑岩です。シャープペンが置いてある周辺は鉱物の結晶がほとんど見えなくて、縦に灰色のラインが何本か入っています。一方、写真の左端近くには白い鉱物(長石)が点在しているのがわかります。シャープペンが置いてある周辺は、花崗斑岩(貫入岩)の急冷周縁相だと思われます。 学生の頃、大学の先生から、「急冷周縁相とは、教科書では『貫入岩などの岩石が他の岩石に入り込んだとき、接触部は他の岩石に急に冷やされるために鉱物が成長できずに小さくなる』と書かれてあるけれど、あれは間違いだ。貫入岩がマグマとして他の岩石に入り込むときは、すでにマグマ中に鉱物の一部が結晶として晶出している。だから、その晶出した結晶が小さくなるはずがない。これは流体力学の問題で、一定の方向にマグマが流れている時、接触面は冷やされて粘性が高くなる。そのため、マグマの動きが遅くなり、大きな結晶は流れの速い中央部の方にもっていかれてしまう。そのため、冷えやすい接触部に近い部分(周縁部)は大きな結晶が存在しないのだ。」と聞き、今でも印象に残っています。 急冷周縁相は地質現象のよく知られたものの一つです。露頭観察では見られることがあっても、一目でわかるような場所は少なく、明確にわかるような写真はなかなか撮りにくいものです。下の写真は、上の写真と同じ露頭で、急冷周縁相の部分(右側の写真)とその他の部分(左側の写真)を並べたものですが、鉱物の大きさの違いがよくわかると思います。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その6 貫入岩中の流理構造

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  以前、郡上市美並町の中学校に勤務していた先輩教員から、「珪化木のように年輪のようなものが見える石が学校に以前から置いてあり、美並町内で採集したということだけれど、何だと思う?」と聞かれ、実物を見せられました。どっしりした柱状の石でした。縦に平行の細かい縞模様が何本もあり、年輪のように見えましたが、縞模様の中に細かい石英の粒が点在していることは確認できましたので、「石英が入っているので、流紋岩質の溶岩で流理構造が年輪のように見えていると思う。」と答えました。しかし、美並町に流紋岩質の溶岩ってあったかなぁ、とそのときは疑問をもちながらも、流理構造は溶岩にのみ見られるものだと決めつけていました。それから10年以上だった後に、その珪化木のような石の正体を突き止めたとともに、流理構造は貫入岩でも見られることに気付かされました。 上の1枚の写真は、郡上市美並町下田の南の長良川右岸で撮ったものです。貫入岩である花崗斑岩に見られる流理構造だと思われます。流理構造は、中に入っている鉱物の結晶などが平行に配列して縞模様をなす岩石の構造です。粘性の高い流紋岩質マグマが流動している場合、粘性が高いためマグマは均質になることなく、引き伸ばされたり、押し縮められたりすることによって、中に入っている鉱物などが平行に並び、不均質が縞模様として残るのです。流紋岩という言葉自体、流理構造を示す岩石という意味です。そのため、溶岩で見られる構造と思い込んでいましたが、ここでは花崗斑岩という貫入岩で見られるのです。 流理構造は、他の岩石(ここでは美濃帯堆積岩類中の混在岩)との接触部から40 cm ~75 cm の幅で存在しています。流理構造の見られる部分は、鉱物結晶は1 mm 以下でわかりにくいです。この流理構造の見られる部分は接触部近辺であるため、他の部分と比べると冷えやすく、粘性をもちながら流動し、その跡が縞として残ったのだと思います。 下の写真は、流理構造が見える露頭を少し離れて撮ったもので、下半分の黒い岩石は混在岩(泥岩の中に砂岩などの岩塊が混ざっている岩石)、上半分の白っぽい岩石は花崗斑岩です。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)...

一枚の写真から その5 溶結凝灰岩中の柱状節理

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   この写真は、岐阜県郡上市高鷲町穴洞の長良川左岸露頭を撮ったものです。白鳥流紋岩の溶結凝灰岩中に見られる柱状節理で、長良川沿いで見られる柱状節理では一番見事な露頭だと思います。 この露頭では、柱状節理が高さ10m弱で、数10mにわたって見られます。柱状の岩石の幅は70cm~1m数10cmです。 前回紹介した露頭は、同じ溶結凝灰岩の柱状節理の断面と思われる露頭でしたが、ここでは柱状節理が側面から見られ、まさに岩石の柱が連続しているのがわかります。 柱状節理は、火山噴出物が冷却する際に体積が小さくなる(縮む)ため隙間ができ、それがもとになって連続的な割れ目が形成されたものです。その割れ目によって、岩石の柱が束ねられたような状態で露出しています。 柱状節理で有名なのは、兵庫県豊岡市の玄武洞公園内の玄武洞や青龍洞などでしょう。六角柱状の玄武岩の柱が連続的に規則正しく並んでいるのが見られます。 前回紹介した溶結凝灰岩の柱状節理の断面と考えられるものは、三角形、四角形などをしていたように、上の写真の柱状節理も見えている柱の角の大きさからすると三角柱や四角柱(直方体)をしているように思われます。 岐阜県では、溶結凝灰岩の柱状節理は、 郡上市和良町鹿倉の濃飛流紋岩が知られています(下の写真)。ここの柱状節理も柱の 角の大きさからすると三角柱や四角柱(直方体)をしているように思われます。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その4 溶結凝灰岩の柱状節理の断面でしょうか?

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  上の写真は、郡上市白鳥町中切の長良川沿い右岸河床、つり橋の上流に見られる溶結凝灰岩(白鳥流紋岩)を撮った一枚です。この露頭を初めて見た時、正直、「なんだろう?」と思いました。分布状況から、溶結凝灰岩であることは間違いないです。しかし、割れ目で囲まれた三角形や四角形、五角形の中に白くて丸っこいものが一つずつ入っています。平面でとらえると、核の部分をもつ三角形や四角形、五角形が隙間なく組み合わさったものです。一辺の長さは 1 m~ 2.5 mほどです。 立体でとらえるとどうでしょうか。この断面が柱状につながっていれば、柱状節理でしょうか。その中心付近に丸っこく同じ材質の白っぽい岩石が入っています。露頭を見て回ると、違う場所では、丸っこい白っぽい岩石が円柱状に伸びているところが確認できます(下の上写真)。また、丸っこい白っぽい岩石が放射状に割れているものもありました(下の下写真)。それらから判断すると、三角形や四角形、五角形というのは柱状節理の断面を見ていて、冷え方の違いから、それぞれの柱状節理の中央部分に円柱状の核の部分が見られるようになったのでしょうか。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その3 地質の違いと山の形

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  上の写真は、岐阜県美濃市の長良川東方にある松鞍山(標高 316m )を南から撮ったものです。南から見ると、台形の山の上に三角形の山が乗っているような山の形です。南から撮った写真ではわかりにくいのですが、山の左側にも山頂があり、左の山頂と右の山頂の間が凹むという山の形をしているのです。地形図では全体で松鞍山という記載になっていますが、地元では左の山頂を前平山と呼び、右側の高い方を松鞍山と呼んでいます。地質図を見ると、大部分はチャート層(地質図ではオレンジ色)でできていて、砂岩層(地質図では黄色)が南東から北西にかけて挟まっているという分布をしています。砂岩層がチャート層と比べて浸食されやすいため低くなり、その結果一般的な山のイメージとは違い、南から見ると左部分が削られたような形になっています。 このように、松鞍山は地質の違いで浸食が異なり、それが山の形をつくりだしているのです。地質が反映されている山の一例です。 下の写真は、松鞍山を北から撮ったものです。「松鞍山」の下に二つの山頂がありますが、「山」の下が前平山、「松」の左下が松鞍山です。南から見るよりも真中が凹んでいるのがわかると思います。長良川鉄道で美濃駅から郡上八幡方向へ向かい、美濃駅出発後約 1 分 20 秒後に撮った写真です。地質図は、 HP「ジオランドぎふ」(岐阜県博物館提供)からとったものです。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その2 チャート層と崖

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上の写真は、岐阜城がそびえ立つ金華山~洞山を南から(岐阜市北一色あたりから)撮った1枚です。金華山~洞山はチャート層からできていて、全体的に木々に覆われていますが、垂直に近い部分では崖が形成されていて、岩石が露出しています。写真では淡灰褐色~灰色をした部分がチャートの崖です。 チャートは、陸地の砂や泥などが届かないような深海底で堆積したものがもとになっています。具体的には、ガラス質の殻をもった微生物(放散虫など)が堆積し、固まったものです。ガラス質のものがくっつき、固まったものであるため、硬く浸食されにくい岩石です。岐阜市から北西の美濃市にかけては、チャート層と砂岩層が隣り合って分布することがあり、そのようなときには、チャートは浸食されにくく、砂岩は浸食されやすくいという特徴が地形に現れます。チャート層は高く険しい山地を構成し、砂岩層は低くなだらかな山地を構成するのです。岐阜市や美濃市の割と高い山頂をもつ山は、チャート層でできているものが多いです。チャート層と砂岩層が隣り合って分布し、1つの山を構成する場合でも、山頂はチャート層でできているようです。砂岩と比べてチャートは浸食されにくいため、高い山地として残るのです。 しかし、チャートも浸食しないわけではありません。チャートは硬いけれど、けっこうもろいです。表面から風化するというより、直方体でくずれるのです。例えば、チャートをハンマーで叩き割ろうとすると、直方体のような形で細かく割れることが多いです。また、ガスバーナーなどで熱して、水で冷やすということを繰り返すと、直方体で割れてしまいます。このようにチャートは硬いですが、縦横に割れ目が入っていてもろいのです。割れ目については、チャート層は付加体として陸地にくっついたもので、プレートの動きにしたがって、外から力を受け続けていることに起因しているのだと考えられます。チャート層が分布する山地では階段状の地形をなすことがありますが、直方体で割れやすいことが関係しているのでしょう。そのため、垂直の崖もつくり出しやすいのだと考えられます。逆に言えば、垂直の崖が見られるのがチャートの山の目印と言ってもよいのでしょうか。もちろん、ほかにも火山岩の節理のように崖を作り出しやすい岩体はありますが。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)

一枚の写真から その1 根尾谷断層(水鳥の断層崖)と樽見鉄道

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  今まで、岐阜県内の長良川とその支流沿いの地質と地形、および美濃地方の地質、名古屋の街化石、地質と立体写真などについて、掲載してきました。これからは、岐阜県の地質に関係する一枚の写真をもとにして、20回に渡ってつぶやいてみます。 上の写真は、岐阜県本巣市根尾水鳥、特別天然記念物である「水鳥の断層崖」を段丘面から南西より撮ったものです。中央左下から道路をまたいで左右の田畑に段がありますが、これが断層崖です。中央少し左下には小さくて見にくいですが、根尾谷断層の石碑と表示板があります。右端には根尾谷断層館が、中央右には樽見鉄道の列車が写っています。 1974 年、日本鉄道建設公団による樽見への鉄道敷設工事中、特別天然記念物・根尾谷断層にかかったため、地震学会等の申し出により一度工事が中断され、ルートの変更後再開したという経緯があります。その経緯が、地震学者側からですが、「地質ニュース 464 号( 1993 年 4 月号)天然記念物「水鳥の断層崖」の開発 松田時彦」に載っています。一部抜粋します。 「…そんなある日、現地を訪ねた一人の地震学者が、その断層崖の一部が大規模な工事現場に変わり、どこからか運び込まれた多量の土石の山に埋められつつあるのをみて、吃驚した。断層崖を埋めるその工事は、断層崖を横切ってさらに上流へ延びる鉄道の敷設工事であった。多量の土砂は、線路が高さ 5m の断層崖を横切るのに必要な盛り土の材料であったから、その盛り土の高さはすでに断層崖よりも高くなっていた。その知らせはすぐに専門家の間に広がり、 1974 年 8 月には、関連する 3 つの学会、地震学会、日本地質学会、日本地理学会がそろって、文化庁長官あてに断層崖の現状保存を訴える要望書を出した。このような学会の動きに反発する村民も少なくなかった。土地の人々にとっては、鉄道を通すことは明治時代からの宿願である。学者が云うほどに大切なものなら、今日まで、なぜそれを放置してきたのか。鉄道を退けての現状保存は土地に住む人のことを考えない学者の身勝手ではないか。学者一行が現場にきたら、むしろ旗で迎える、という噂さえあった。数年後、鉄道はその線路の位置を当初計画よりも数十m南西に迂回させて完成した。新しい路線は、断層崖のはずれであり、路床は盛り土ではなく高架橋にかえられた。断層崖を埋めた土砂は丁寧に除...