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展示物と立体視その3(動物の骨格と立体視)

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立体写真のよさは、立体である被写体を立体感をもって見られることです。自然系の博物館で展示の目玉である全身骨格標本(ティラノサウルスやトリケラトプスなど恐竜骨格、ナウマンゾウやマンモスゾウなどの大型哺乳類の骨格など)は、立体で見るからこそ迫力があり、また骨格の構造がわかります。ただし、全身骨格はけっこう人気があり、見学者に絶え間がないため、人が写らない写真がなかなか撮れません。時間差で左眼用と右眼用の写真を撮影する場合、人が写ると移動のため左右の写真で人の位置が異り、適した立体写真を撮ることができないのです。 下の3枚の写真は、豊橋市自然史博物館の入口入って少し先のロビー(自然史スクエア)に展示してあるティラノサウルスとトリケラトプスの全身骨格です。立体視で見ると、立体で見えるからこその臨場感があると思います。この写真は見学者が少ない平日の早い時間に撮りました。 恐竜などの現在生きていない動物の全身骨格復元は、発見された骨格の情報をもとに、過去に発見された同じ又は似た動物の骨格で足らない部分を補うなどして、行われています。特に、骨がどのように関節するかについては、論文やその他の資料を参考にして行われます。最近では、力学的な検討(例えば、重い頭を支えるための力学的なバランスをとることがどうすれば可能かなど)や生理学的構造の検討(例えば、関節のつき方や骨の丈夫さなどによって脱臼する可能性があるかどうかなど)によって、復元骨格の検討がなされています。そのため、科学が進歩するにしたがって、復元骨格は変わることがあります。  昔の定説では、アロサウルスは長い尻尾を引きずって歩くゴジラ型でした。しかし長年の研究により、重い頭とのバランスをとるために尻尾を上げながら歩いていたことが明らかになり、現在では頭と尻尾でバランスをとるつり橋型が定説です。下の2種類の写真はいずれもアロサウルスの全身骨格で、上の写真は昔の説によって復元された大阪市立自然史博物館のアロサウルス、下の写真は現在の説によって復元された岐阜県博物館のアロサウルスです。立体視によって、全身骨格がより理解できると思います。ちなみに、大阪市立自然史博物館では寄附を募って、現在のつりばし型の復元も展示しようとしてみえます。    下の5種類の写真は、昔生きていた大型動物の全身骨格です。上から福井県立恐竜博物館...

展示物と立体視その2(展示模型の立体写真)

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  下の2種類の写真は、古生代ペルム紀の大型2枚貝であるシカマイアの模型です。シカマイアは、美濃帯堆積岩類中の石灰岩から見つかっています。しかし、化石ではシカマイアの断面しか見られないため、全体の形はわかっていませんでした。研究によって、いくつもの断面を検討し、全体の形が推定されました。その模型が2種類の写真なのです。上の写真は岐阜県博物館に展示してある模型ですが、1枚の写真では、何となく膨らんでいる部分があるように見えても、どのように膨らんでいるかはわかりにくいです。立体視をすると、中央より左下が膨らみ細長い穴が開いていることがわかります。 復元模型は、化石から得られた3次元推定なので、研究者によってはやや異なります。下の写真は豊橋市自然史博物館に展示してある模型です。同じシカマイアという巨大二枚貝であっても、上の写真と下の写真では少し異なります。全体の形を把握できる立体模型は、立体写真によってより理解できるでしょう。 岐阜県博物館に展示してあるシカマイアの模型 豊橋市自然史博物館に展示してあるシカマイアの模型 下の4種類の写真は、化石で見つかっている生き物の模型を撮ったものです。模型は生きていた時の姿をイメージするために立体で作成したものです。1枚の写真ではなかなか立体感が伝わりませんが、2枚のとなり合う写真を立体視で見ることによって、博物館で展示されている立体模型を感じることができると思います。上の写真は群馬県立自然史博物館のフズリナの模型、中上の写真は豊橋市自然史博物館の放散虫の模型、中下の写真は九頭竜化石ラボガ・オーノのベレムナイトの模型、下の写真は豊橋市自然史博物館のアノマロカリスの模型です。 フズリナ(レピドリナ)の模型 群馬県立自然史博物館 放散虫(エンタクティニア)の模型 豊橋市自然史博物館 ベレムナト復元模型 九頭竜化石ラボ ガ・オーノ アノマロカリスの模型 豊橋市自然史博物館 他にも、ミクロであるために全体の形がわかりにくい花粉の模型と放散虫の模型を載せておきます。花粉の模型は滋賀県立琵琶湖博物館で撮ったもの、放散虫の模型は地質標本館で撮ったものです。同じような写真が2枚並んでいますが、写真の下の白丸や黒丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。  花粉の模型 滋賀県立琵琶湖博物館 カシの仲間の...

展示物と立体視その1(博物館の展示物と立体視)

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立体写真のよさは、左眼用と右眼用の写真を用意することによって、立体視さえできるようになれば、 その被写体を 立体的に 見られることです。立体写真を作成するには、2眼レンズの立体写真専用のカメラを使えばよいのですが 、そのようなカメラがなくても、時間差で左眼用と右眼用の2枚の写真を撮れば可能です。時間差で撮る場合は、被写体が動かないという条件は必要です。被写体が動かないものであれば、左右少し離れて2回撮るだけです。左右の写真を撮る場合、カメラを回転させることなく、平行に移動して撮ることを意識すれば、それほど難しいものではありません。たとえそれができなくても、回転については写真作成時に回転を戻してやればよいので、数度の回転であればソフトによって調整はできると思います。実際には行っていませんが、平行に移動して撮ることについても、台形補正ができるソフトがあれば修正は可能だと思います。また、多少平行でなくてもそれほど問題はありません。 展示物写真の立体視については、臨場感を人に伝えられることが大きいと思います。特に、立体写真は肉眼での立体感を強調できるよさがあります。人の左眼と右眼の間隔は6cm程度ですが、左眼用写真と右眼用写真を6cm以上離して撮れば、肉眼での立体感をより強調することができます。ただし、できる限りカメラを平行に移動させて撮るということが大切になります。 次の写真は、有名な始祖鳥のベルリン標本のレプリカ(福井県立恐竜博物館で撮影)です。上の写真では、陰影がありますので多少の立体感は感じることができますが、臨場感がありません。しかし、下の写真では、立体視ができれば、特に頭部や頸部、大腿骨の周辺部分の岩石が削られているので、凸凹が明瞭で、立体的にとらえることができると思います。 下の写真で、下方にある●を 、左の写真は左眼で、右の写真は右眼で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。 このように、ほぼ平面の被写体であっても、多少の凸凹さえあれば強調して立体的に見ることができる、それが立体写真です。 ただし、経験上、横に長細い展示物、凸凹なくほぼ平面の展示物、小さな展示物、花のように細かいものが散らばっているものは立体視に合っていないように思います。 立体視用の左右の写真を撮るには、前述しましたが、カメラを回転させることなく平行に移動させること...

露頭と立体視その14(遠景の立体写真)

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  「露頭と立体視その1航空写真による立体視」で紹介しましたが、左眼用写真と右眼用写真を離して撮影をし、それを立体視すれば、地形の凸凹を強調して見ることができます。航空写真は垂直方向からの撮影ですが、水平方向でも、左眼用写真と右眼用写真を離して撮れば、遠景の被写体を立体視することができるはずです。しかし、実際はなかなか難しいです。それは、撮りたい遠景の被写体の前方に違う被写体が写り込むことが多いためです。片方の写真にのみ前方の被写体が写ったり、両方の写真に前方の被写体が写るものの大きく離れたりして、立体視に違和感が出て見にくくなるのです。そのため、遠景の立体写真を撮る場合は、被写体の前方に違う被写体がないことが大切です。航空写真では、前方の被写体は雲だけなので問題はありません。前方の被写体が邪魔になれば、遠方の被写体のみをトリミングしてもよいですが、遠方の被写体に前方の被写体がかぶっているとトリミングもできません。このように、遠方の被写体のみを写す場所を見つけることが、遠景の立体写真の難しさだと思います。 「遠くの被写体を立体的に撮影する場合は、被写体までの撮影距離の2~3%程度(=1/30)が目安となる(ウィキペディア“ステレオグラム”より)」と書かれたものがありますが、山の遠景において谷と尾根の凸凹などは、左眼用写真と右眼用写真の間の距離が被写体までの距離の1/100(1%)程度までであればよさそうです。下に写真が4種類ありますが、いずれも岐阜市の忠節橋から金華山を望んで撮った写真です。長良川に架かっている忠節橋から金華山頂までの水平距離は約3kmです。その遠景の金華山を、左眼用写真と右眼用写真の間の距離を変えながら撮ってみました。左眼用写真と右眼用写真の間の距離は、上の写真が100m(1/30)、中上の写真が60m(1/50)、中下の写真が30m(1/100)、下の写真が10m(1/300)です。岐阜城がそびえ立つ金華山は、忠節橋から見ると城の下方に幅の広い谷、左下にも谷があります。その谷地形が明瞭に見えるかどうかで立体視をすると、上と中上、中下の写真は割とはっきり谷の凹地形がわかります。下の写真も凹地形がわかりますが、それより麓のビルや長良川周辺の立体がはっきりわかります。遠景の谷地形を被写体とすると、左眼用写真と右眼用写真の間の距離は、被写体までの撮影...

露頭と立体視その13(花崗岩地形と立体写真)

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  花崗岩はマグマが地下深くでゆっくり冷え固まった岩石で、方状節理(四角いブロック状に割れる規則的な割れ目)が発達しているとともに、同じような大きさの鉱物結晶が集まってできているという特徴があります。方状節理が発達しているため、 立方体や直方体に割れやすく、割れ目に沿って浸食すると、立方体や直方体が目立つ独特な地形をつくり出します。花崗岩体内に渓谷や峡谷が見られることがありますが、河川などによって浸食を受け、方状節理のため水平面と垂直面をつくり、角が明確な直線的な美しさをもった自然の造形美をつくりだすのです。 また、同じような大きさの鉱物結晶が集まっている岩石であるため、風化には弱く、岩石を構成する鉱物がばらばらになりやすいです。風化すると表面から鉱物がはがれ、 立方体や直方体の角がとれ、丸みを帯び、 なだらかな面をつくりやすいです。つまり、風化がきわだつところや全体的に浸食を受けるところでは、なだらかな、かつなめらかな曲線的な地形をつくりだします。このように、花崗岩は方状節理がきわだって直線的な造形美をつくりだす場合と、風化のため曲線的な造形美をつくりだす場合があります。 下の写真は4種類ありますが、上と中上の写真は、それぞれ関市洞戸の高賀渓谷、関市板取の川浦(かおれ)渓谷を上方から撮ったものです。立体視で見ることによって、立体感をつかむことができ、激しい浸食によって直線的な造形美をつくりだしていることがわかると思います。中下と下の写真は、関市洞戸の高賀渓谷の少し上流で見られる花崗岩、御嵩町の鬼岩公園内の太郎岩と名付けられている花崗岩を撮ったものです。こちらは立体視で見ることによって、なめらかな凸凹や丸みを帯びているのがわかると思います。  花崗岩は、前述したように、風化を受けると鉱物一つ一つがばらばらとなり、はがれていきます。その風化が場所によって差異があり、削られ方が異なることによって傘を開いたときの形をした岩石が残りました。それが、恵那市大井町で見られる国指定天然記念物の傘岩です(下の2種類の写真)。傘の上面が以前は地面であったと考えられます。上の写真は南から、下の写真は北から撮ったものです。風化と削られることによってできた見事な曲線美ですが、立体視によって、実感を伴って見ることができると思います。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (mi...

露頭と立体視その12(滝と立体写真)

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滝は河川などの一部が段差になっているため、流水が落下している場所です。段差ができる原因はいろいろありますが、原因の一つとして、河川の流路が浸食の度合いの異なる岩石上を流れていると、段差ができる場合があります。水流は軟らかい岩石を浸食して河床を低下させますが、硬い岩石の部分は残るため段差を生じさせるのです。 岐阜県郡上市白鳥町にある 阿弥陀ヶ滝は、日本の滝100選にも選ばれている滝で、落差約60mです。この滝は、スキー場で知られる大日ヶ岳の溶岩層にかかる滝で、滝の周辺では溶岩層の下に火山砕屑岩層(かざんさいせつがんそう)が分布します。火山砕屑岩は火山から噴出された火山灰や火山岩塊などが堆積してできた岩石であるため、溶岩と比べると緻密ではなく軟らかく浸食しやすいです。硬く浸食しにくい溶岩層の下に、浸食しやすい火山砕屑岩層が堆積しているため、下部の方が先に浸食し、上部がくずれるなどして急崖(段差)が形成され、そこが滝となっています。 阿弥陀ヶ滝の写真は3種類ありますが、上と真中の写真は滝の全体を、下の写真は滝の右下の部分を撮ったものです。立体視で見ることによって、凹凸の状況がわかります。滝の上部4/5は溶岩層でできていて、下部1/5は 火山砕屑岩層からなっています。 特に、滝の中~上部は溶岩でできているため、ごつごつしていて凸凹しているのがわかります。 時間差で左目用と右眼用写真を撮った場合、一般的には被写体が動くと違和感があり、立体視がしずらくなります。滝の水は常に流れているので、時間差で左右の写真を撮ると若干異なる水の形が写ります。しかし、それが逆に流れている水として認識できるので、立体写真としては違和感がないと思います。 下の3種類の写真は、長良川上流の夫婦滝です。落差は約17mと表示があります。この滝も、滝の上部2/3と下部1/3のところでは岩石が異なり、上部2/3は安山岩質溶岩から、下部1/3は角礫が入った岩石(火山砕屑岩)からできています。阿弥陀ヶ滝と同様に、浸食しにくい溶岩層の下に、浸食しやすい火山砕屑岩層が堆積しているため、下部の方が先に浸食し、上部がくずれるなどして急崖が形成され、そこが滝となっています。 上の写真は夫婦滝をやや遠方から撮ったもので、手前に写っている礫が立体的に見えます。真中の写真は近づいて撮影したもので、上部の溶岩層が凸...

露頭と立体視その11(鍾乳洞と立体写真)

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   「露頭と立体視その5石灰岩内のカレンなどの溶食地形の立体写真」では、石灰岩中の特殊な地形を立体視で見ることについて述べました。石灰岩が弱い酸性の水によって溶かされ、その水の中の成分が沈着して成長したものが鍾乳石です。そして、その鍾乳石が多く見られる洞窟が鍾乳洞で、観光資源となっています。 鍾乳洞は自然が造りだした立体の造形美です。上から垂れ下がるつらら石や、下から伸びる石筍などの鍾乳石は重力の関係で垂直方向に延びるものが多く、直線的な美しさをもっています。また、水の中に溶けていた炭酸カルシウムが沈着して成長したものであるため、形としてなめらかな美しさ、およびすべすべした表面の美しさをもっています。立体視で見ることによって、成長している方向がよりわかり、三次元的な拡がり、特に洞窟や鍾乳石の奥行きが感じられ、迫力と美しさが理解できると思います。 上3種類の写真は、岐阜県内の鍾乳洞の写真です。上と中の写真は郡上市八幡町の大滝鍾乳洞、下の写真は同じく郡上市八幡町の美山鍾乳洞です。立体視で見ることによって、鍾乳洞内の鍾乳石の立体感や表面のなめらかさがわかると思います。 上3種類の写真は、沖縄県の玉泉洞を撮ったものです。立体視で見ることによって、洞窟や鍾乳石の奥行きが感じられ、洞窟の空間の広さが実感できると思います。 いずれの写真も、写真の下方にある白丸または黒丸を、左の写真は左目で、右の写真は右目で見て、重ね合わせるようにすると立体的に見えます。 美濃地学 - 地学のおもしろさを、美濃から (minotigaku.com)